愛知製鋼との秘密漏洩事件をめぐる紛争の現状と今後の見通し

マグネデザイン株式会社 代表取締役社長 本蔵義信

はじめに

2016年以降愛知製鋼との間で続いている秘密漏洩事件をめぐる紛争について、現状と今後の見通しを整理し、当社の見解を表明する。

 1章で、裁判の第1段階では、2016年に愛知製鋼から提起された秘密漏洩に関する10件の訴えについて、いずれも事実無根であることが明らかとなり、全面勝訴を収めた。しかも愛知製鋼の営業秘密の盗用を主張する理屈が全面破綻した。2章では、第2段階となる損害賠償裁判において、秘密漏洩に関する2件が提訴された。誤った菊池証言の影響により一部敗訴となり、55万円の損害賠償を命じる判決が下されたが、現在、控訴中である。

 3章および4章では、菊池証言が誤りであったことを証拠に基づいて立証する。さらに、菊池証言は警察の誘導尋問によって得られたものであり、証拠としての信頼性に欠けることを立証する。最後に、今後の裁判の展開について予想を述べる。

目次

1章 裁判の第1段階は愛知製鋼が告訴した10件すべてに勝利した

2章 第2段階の民事裁判は誤った菊池証言で一部敗訴となった

3章 X社に頼まれて治具を送ったとの誤った菊池証言が敗訴の原因

4章 誤った菊池証言は、警察の誘導尋問の結果

5章 今後の展開予想

1章 裁判の第1段階は全面勝利となった

2016年に愛知製鋼から提起された秘密漏洩に関する10件の訴えは、裁判の結果、すべて事実無根であったことが明らかとなり、全面勝訴を収めた。

1)本蔵特許6件の冒認出願との告訴(愛知製鋼の営業秘密の盗用疑惑)

愛知製鋼は、本蔵特許6件すべてが、愛知製鋼の営業秘密を盗用したもので冒認出願に当たるとして告訴した。愛知製鋼の理屈は、愛知製鋼は世界で初めてMIセンサを開発した以上、公知情報はない。MIセンサに関するすべての情報が愛知製鋼の営業秘密である。愛知製鋼の営業秘密と共通点があれば、愛知製鋼の営業秘密を盗用したことになる、という極めて不合理な主張であった。

通常、二つの技術の比較は、共通点と相違点を整理する。共通点については、それが公知情報であるか否かを検討し、公知情報であれば、秘密の利用には当たらないため、秘密盗用の検討対象から除外する。一方、相違点については、相互に代替可能か否かを検討する。代替可能であれば、事実上同一の技術と判断し、代替不可能であれば、両者は異なる技術と判断する。以上が、技術比較における基本的な考え方である。

警察での取り調べおよび裁判の結果、MIセンサに関する技術情報は、先行する公知情報を基礎としていることが確認された。また、愛知製鋼が保有するMIセンサ技術は、膨大な公知情報とごくわずかな営業秘密から構成されていることが明らかとなり、本件紛争における両社の技術の共通点は、公知の技術常識であると認定された。さらに、相違点については、愛知製鋼の技術と本蔵の特許技術は代替不可能で、両者は異なる技術であると判断され、告訴は却下された。

2)GSRセンサ特許の無効裁判3件

愛知製鋼は、GSRセンサとMIセンサの共通点を挙げ、両者は同一の原理に基づくものであり、GSRセンサ特許には進歩性がないとして、当該特許は無効であると主張した。

これに対し、特許裁判の審決では、4つの新現象(2相の磁区構造を有する磁性ワイヤ、所定の強さを有する電流、GHzパルス、正弦関数依存性)の組合せによって実現される超高速スピン回転現象を捉えたセンサであると判断され、当該特許の進歩性が認められた。

この審決により、両者の技術原理および技術構成が異なることが明らかとなった。この判断が、以下の製造技術に関する秘密漏洩告訴において、当社が勝訴するための重要な土台となった。技術原理と技術構成が異なれば、それぞれの製造方法も当然異なると考えられるためである。

3)製造技術に関する愛知製鋼からの刑事告訴3件

一件目:ホワイトボード事件(本蔵と菊池)

本蔵と菊池がホワイトボードを使ってX社に秘密の磁石式治具を開示したとされる事件では、菊池が愛知製鋼の営業秘密とされた装置の動作順を説明したと自白したことにより、逮捕・起訴された。しかし、裁判の結果、開示した情報は公開情報であり、愛知製鋼独自の営業秘密は含まれていなかったことが明らかとなり、無罪となった。

二件目:サーバからの営業秘密コピー事件(菊池単独)

菊池は2015年5月、アクセス権を利用してコピーし、不正に持ち出したとされた。しかし、マグネデザインは2015年1月には独自工程で素子の開発を完了しており、菊池が持ち出した営業秘密を利用していないことは明らかとなった。その結果、本件は不起訴処分となった。

三件目:磁石治具送付事件(菊池単独)

警察は、菊池が本蔵の指示で磁石式治具を送付し、それを設備や治具の製作に利用した(技術を盗用した)との疑いで取り調べを行った。しかし、本蔵は、製造プロセスが異なるため愛知製鋼の治具は役に立たないこと、また、X社に磁石式治具を提供しないとの契約を結んでいたことを説明した。さらに、菊池が本蔵からの指示を否定したため、警察は本蔵との共謀を立証できず、治具の送付目的も明確にできなかった。その結果、本蔵は嫌疑不十分、菊池は起訴猶予となった。

以上をもって、2016年に愛知製鋼が告訴した案件はすべて解決した。一件落着と思われたが、愛知製鋼は、今度は秘密開示に争点を絞り、損害賠償を求める民事訴訟を提起した。

2章 民事裁判は一部敗訴となった

愛知製鋼は、本蔵と菊池が外部に秘密を開示したとして、以下の2件(事件❶❷)を理由に民事訴訟を提起し、15億円の損害賠償を請求した。

・事件❶:本蔵特許による、治具の秘密を開示したとする事件

・事件❷:菊池がX社への図面と治具を送付したことによる、治具の秘密を開示したとする事件

当社としては、これらの主張は、事件を捏造したものであると考えている。

1)事件❶について

愛知製鋼は、磁石式治具の構造および効用に関する秘密が開示されたと主張した。しかし、判決では、治具の構造についてはヨークの有無に違いがあり、効用についてもワイヤの反発力を制御する仕組みに違いがあると認定された。これにより、両者の治具は異なるものであり、愛知製鋼の営業秘密を開示したことには当たらないと判断された。その結果、マグネデザイン側の主張が全面的に認められ、愛知製鋼が事件❶によって生じたと主張していた15億円の損害賠償請求は棄却された。

2)事件❷について

菊池は、裁判において、当時愛知製鋼の原価活動として小型素子の試作に取り組んでおり、X社の装置完成後、その装置に磁石式治具を取り付けて試作を行う予定であった。また、装置の検収はプレート台で行うため、磁石式治具は使用しないことを理解していたが、X社から送付を依頼されたため、手元にあった愛知製鋼の現行治具を送付したものであり、その際、装置に取り付けられるものではないと説明したと証言した。しかし、裁判所は、X社からの依頼があったので治具を送付したとの菊池証言を根拠に、X社の業務が本蔵からの依頼であった以上、菊池は間接的に本蔵の要望に応えて秘密を開示したと判断した。さらに、マグネデザインから菊池に支払われた200万円の報酬のうち、50万円が治具送付に対する謝礼に当たると認定した。その結果、愛知製鋼が請求した15億円の損害賠償額のうち、55万円(請求額の約0.04%)の支払いを命じる判決が下された。これが一部敗訴につながった。マグネデザインは直ちに控訴し、現在も係争中である。

3章 敗訴の原因は、X社に頼まれて治具を送ったとの菊池証言

これまで、愛知製鋼が提訴したすべての案件で勝訴してきたが、事件❷については唯一の敗訴となった。当社は、その敗訴の原因は、裁判において菊池が事実と異なる3つの証言(a)(b)(c)を行い、自ら秘密漏洩をしたと認める証言をしたことにあると考えている。そこで、本判決を受け、当社は改めて事実関係を見直すことにした。

  1. 菊池証言(a):X社に依頼されて治具を送った

驚くべきことに、X社は弁護士に対し、菊池に治具の送付を依頼した事実はないと説明した。これにより、菊池の証言(a)は事実に反するものであったことが明らかになった。

  1. 菊池証言(b):治具を送付する前に、検収に利用できない治具だと説明した

菊池は、X社の担当者から、検収には利用できない治具であっても見せてほしいと要望されたため、治具を送付したと証言していた。しかし、X社の担当者Aは、菊池とは治具を受け取った後に知り合ったと証言しており、菊池の証言が事実と異なることが明らかになった。

実際には、菊池が自発的に治具を送付し、その後、X社の担当者に対して、検収には利用できない治具であると説明したということであった。

  1. 菊池証言(c): 治具送付の目的はX社にとって参考になる(役に立つ)と思ったため

菊池は自発的に磁石式治具を送った訳であるが、では治具送付の目的は何であったのか?疑問である。そこで、証拠を再検証したところ、検収時のX社の議事録に、菊池が送付した治具を用いて装置固定台の改造について交渉し、改造図面を作成することで合意していたことが記載されていた。つまり、菊池が治具を送付した目的は、菊池がX社に対し、愛知製鋼の小型素子試作用磁石式治具に関する協力を依頼するため、愛知製鋼の現行治具を送り、それを用いて装置固定台の改造図面について打ち合わせることにあった。従って、治具の送付が、菊池の愛知製鋼の業務の一環として行われたことは明らかである。

以上から、菊池の「X社の参考になると思い治具を送付した」との証言(c)は、事実と異なると考えている。

4章 誤った菊池証言は、警察の誘導尋問の結果

では、菊池は誤った証言(a)(b)(c)をなぜ行ったのか?結論的に言えば、警察は菊池の治具送付の行為を本蔵との共謀による秘密漏洩犯罪とするために、菊池を誘導尋問して「X社から頼まれたから仕方なく治具を送付した」と記憶操作をした、その結果である。現在手元にある証拠を基礎に、菊池が誤った証言(a)(b)(c)にどのように誘導尋問されたかを、以下に記す。

1)証言(a)について

警察は、菊池に対し、本蔵の指示で治具を検収に使用するために送付したのではないかと追及した。しかし、菊池は本蔵とは無関係であると否定し、治具はX社の装置に取り付けることができず、検収に使用するために送付したのではないと説明した。そこで警察は、送付の目的はX社に依頼されたためか、という誘導尋問に切り替えた。菊池は小型素子試作用の磁石式治具製作に協力してもらうため、参考として現行治具を見ておいてもらいたかったと説明した。しかし、警察から「X社も治具を見ておけば参考になるということだな」と誘導され、菊池は「そうと思う」と回答した。さらに警察は、X社から治具を送ってほしいとのメールがあることを示し、「その依頼に応えたのだな」と念を押した。菊池は、メールがあるならそうなのだろうと思い込み、X社からの要望によって治具を送付したと認識するに至った。

2)証言(b)について

菊池はX社の担当者Aに対し、治具は検収には使用できないものであると説明したこと覚えており、その旨を警察にも説明した。しかし、警察から「検収に使用できなくてもよいので送付してほしいと要望され、検収目的ではなくX社にとっても参考になると思って送付したのだな」と繰り返し誘導尋問されたことで、菊池は次第にそうだったかもしれないと思うようになった。

3)証言(c)について

警察から「X社に依頼され、設備製作の参考になるため送付したのだ」と繰り返し誘導尋問されたことで、菊池は、小型素子用の治具製作に協力してもらうにはX社との友好関係も大切であり、その要望に応えるために送付したのだと思うようになった。そして、X社から頼まれたために送付したと証言するようになった。警察はその回答に満足し、以後、本件を話題にすることはなくなった。菊池はその後、事件に関する証拠を見る機会もなく、治具を送付した本来の目的を思い出すこともなかった。

4)その他の誘導

警察は、菊池に「X社の検収の帰りに、菊池と本蔵がY社を訪問し、愛知製鋼の図面を見せて類似治具の製作を依頼した。この事実はY社の社長が証言している」と嘘をついて、本蔵が愛知製鋼の治具を盗用したかったのだと思い込ませ、X社が治具の送付を求めた背景にも本蔵の意向があったと信じるようになった。しかし、菊池は後にY社の社長から「本蔵さんとは20年以上会っていない」と聞き、警察の説明が事実と異なっていることに気づいた。これをきっかけに、菊池は取調中に形成された記憶に疑問を持つようになり、証拠に基づいて記憶を回復するきっかけを得た。現在では、治具送付事件についても記憶が回復し、証拠に基づく再検証の結果、治具の送付は愛知製鋼の業務の一環として行われたものであることが明らかになっている。

まとめ

菊池の誤った証言(a)(b)(c)は、誘導尋問の結果としてなされたものであり、証拠能力を欠くものである。菊池は、現時点では手元の証拠によって当時の記憶を回復しており、誤った証言(a)(b)(c)の内容を明確に否定している。すなわち、治具はX社からの依頼を受けて送付したものではない。小型素子の試作に必要な治具を製作するに当たり、X社との打合せを円滑に進めるための便宜を考慮して送付したものであり、愛知製鋼の業務の一環として行われたものであった。

なお、警察が本件を秘密事件として捏造するために、極めて悪質な捜査を行い、誘導尋問や記憶操作によって菊池に誤った証言をさせたことを、ここに強く指摘しておきたい。

5章 今後の展開予想

菊池の治具送付事件について、X社から治具の送付を依頼した事実がなかったことが判明したのを契機として、本事件の真相が明らかになった。現在控訴中の裁判において、最終的な決着がつくものと信じている。

その結果、本事件のすべては、愛知製鋼の過失に起因するものであったと考える。すなわち、愛知製鋼の営業秘密と共通点があれば、相違点が存在していても秘密の盗用に当たるという誤った理屈に基づき、公知情報について十分な調査を行うことなく、一方的かつ軽率に告訴したのである。愛知製鋼は、この点について真摯に反省し、本蔵、菊池およびマグネデザインに謝罪すべきである。

その上で、「雨降って地固まる」という前向きな精神に立ち、愛知製鋼には、自らのMagnetics事業の再建、国産ボンド磁石産業の拡大、さらには愛知県が主導するMagnetics産業クラスター計画への参画に向けて、舵を切ることを希望する。

以上